真っ赤なお鼻のトナカイさんは いつもみんなの笑いもの。
でもそれはもう昔の話で、そう去年あの日にサンタさんが、トナカイさんが役に立つんだと、はっきり伝えたものだから、一気にトナカイさんはもう、今やみんなの人気者。
でもそうやってトナカイさんが人気者になればなるほど、サンタさんはトナカイさんを、なぜだか避けて通るのでした。
だからその年のクリスマスの日、トナカイさんはサンタさんにこう言いました。
サンタさん、サンタさん、どうしてずっと私を避けるんですか?私が寂しくしているときは、誰より優しかったあなたが、私が人気者になったとたん、急に僕を避けるだなんて!これじゃあまるでサンタさんは、「独りでかわいそうな私」が好きだったみたいだ。だから「人気者になった私」は、もうあなたには必要ない。興味もないということだ。実はそういうことなんですか?
するとサンタさんは、すぐに否定しました。
いや…そうじゃないんだ。違うんだよ
じゃあ、いったいどうして!
食い下がるトナカイさんに、サンタさんは少し苦笑いしながら、こう言ったのです。
ほんとは私は、たくさんのひとたちがいる前でうまく振る舞うのが苦手なんだ。だからお前があまりにも人気者になったものだから、少し、近寄りにくくなってしまってね。でも、私はよかったとも思ってるんだ。だって今のお前は、前よりあたたかい空気のなかで、楽しそうに過ごしているからね。だから今やお前のほうこそが、私を必要としていないのではないかな?だからお前は、好きに生きていいんだよ
これを聴いたトナカイさんは、少し怒って言いました。
そんなの勝手な思い込みですよ!私はあなたのそりを引くことが、こどもたちにプレゼントを届ける、あなたのかけがえのないお仕事を手伝うことが、なによりなにより、うれしいのです!それは私の「義務」ではなく、「強制」されたものでもなく、ただ私が「好きに生きた」結果として、引き受けていた楽しみなのに!それに今さらあなたが独りになったって、あなたがたった独りでは、世界のすべては言うまでもなく、たとえひとつの国にしたって、配りきれはしないでしょうに!あなたが「サンタクロース」を、義務ではなく喜びとして、惰性ではなく冒険として、引き受けているのであるのなら、そのお伴には私がきっと、必要であることでしょう!だって暗い夜道をピカピカ照らす、真っ赤な鼻を持っている、それが私であるのですから!
ですがそれでも、サンタさんは言います。
だがそれは、「私がお前を必要としている理由」であって、「お前が私を必要としてる理由」ではないのではないか?だからお前こそ「惰性」ではなく、もう一度よく考えて、自分の生きる人生を、選んでもいい。いいんだよ
でもトナカイさんも相変わらず強い調子で言い返します。
「自分が必要とするもの」が必要なのと同じくらい、「自分を必要としてくれるもの」も必要だということなんですよ!そして「自分を誰よりも、うまく活かしてくれるひと」もね!私のこの真っ赤な鼻を、そしてこの足このからだを、いつでも他の誰よりも、素晴らしく活かしてくれるのは、サンタさんあなたなんですよ!それを私はこないだ以来、むしろより強く確信した!それにサンタさんあなたがいつも、おとなの前には現れず、こどもたちにだけ現れるのも、そういうことだと思ったのです!それなら今の私の気持ちを、わからないとは、言わせないですよ!
サンタさんは、静かに、でもとてもいい顔で笑って、言いました。
ありがとう。トナカイさん
でもそう言われたトナカイさんも、少し泣きそうになりながら、でもとてもいい顔で笑って、言いました。
こちらこそ、ありがとうございます、サンタさん。でも私にお礼を言うのは、まだ早いですよ。お仕事は、これからなんですからね
こうして、今年もサンタさんとトナカイさんは、夜に向かっていったのでした。また来年も、きっと、お会いしましょうね。

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