LCCにも実際に乗った僕が、木島英登さんとバニラエアの騒動に感じたこと

広告
空港で搭乗盤を見ている女性

しばらくここの更新ができないでいた間、世間ではいろんなことが起きていたけど、そのなかでも僕が特に気になったもののひとつが、木島英登さんとバニラエアの騒動だった。もうこのことが注目されてから1か月以上も経ってしまったし、僕以外にも多くのひとたちが言及したことではあるけど、僕も改めて僕なりの視点から、僕の思ったことを書いてみようと思う。

「前もって連絡したら乗れませんよ」っていうのは、一般論としては、明らかな間違いだ

僕が最初にこの騒動を知ったのは確か

格安航空会社(LCC)の障害者対応が物議を醸している。車椅子の男性が6月初旬、奄美空港(鹿児島県奄美市)でバニラ・エアの飛行機に搭乗しようとしたところ拒否され、仕方なく腕でタラップの階段をはい上がることになったという。 男性はバリアフリー研究所(大阪府豊中市)代表の木島英登さん(44)。木島さんはキャリコネニュー

を読んだときだと思うけど、ここにはこんなふうに木島さんの主張が書かれている。孫引きになるけど、そのまま引用してみる。

「前もって連絡していたら、診断書を出せと言われたり、根掘り葉掘り聞かれたりして面倒です。連絡をしなかったのは確信犯ですね。もし航空会社のスタッフが対応できない場合でも、周囲の人に手伝いを頼むので、とにかく搭乗を拒否するのはやめてほしい。誰もが飛行機に乗れるようになってほしいですね」

まずいくつかの要素を整理することから始めようと思うんだけど、今回の関空ー奄美線に限って言えば、バニラエアの規則によって、たとえ木島さんが事前に連絡をしていたとしても、断られていた可能性が高いことは、ここに書かれている。

バニラ・エアはANAホールディングス傘下。同社によると、国内・国際計14路線を運航するが、奄美空港だけが車椅子を持ち上げる施設や階段昇降機がなかった。車椅子ごと担いだり、利用者の体を抱えたりして上り下りすることは「足元が危険」として規則で認めていなかったという。

同社は「関空-奄美線では、自力で歩けない車椅子のお客さまから事前に連絡があった際には搭乗をお断りしていた。搭乗を想定した対応をすべきで専用のストレッチャーを導入して改善した。今後も階段昇降機を導入していく」としている。

 格安航空会社(LCC)のバニラ・エアを利用した車椅子の男性が今月5日、奄美空港(鹿児島県奄美市)で搭乗する際、「階段昇降をできない人は搭乗できない」と説明され、階段式のタラップを腕の力だけで、はうようにして上らされていたことが分かった。同社は男性に謝罪し、奄美空港で車椅子利用者が搭乗できる設備を整える。

だけど一方で、

前もって連絡していたら、診断書を出せと言われたり、根掘り葉掘り聞かれたりして

というのは、一般論としては、明らかな間違いだと思う。実際僕自身も、バニラエアではないけど、ピーチとジェットスターになら、何度か搭乗したことがある。でもそのときに電話口で

立って歩くことはできますか?

車いすの大きさは、だいたいどのくらいですか?折りたたむことはできますか?

っていうようなことを訊かれることはあっても、

診断書を出してください!

なんて言われた経験はまったくない。それに僕の知り合いにも、そんな経験はない。

それに、1度の旅行のために病院を予約して、診断書料まで払って航空会社に提出することが、いわゆる「格安航空会社」の利用者層ならなおさら負担であることくらい、向こうだってわかってると思う。だからよっぽど特殊な場合を除いては、そんなに厄介なことになる可能性は、ほとんどないと思うんだ。

これはバニラエアの「搭乗拒否」なの?それとも木島さんの「手続き拒否」なの?

しかも木島さんは、

この航路は他のと違って事前連絡しても乗れないから、社会に問う意味も込めて、どうしてもできるところまではやってみよう!

と思ったわけじゃないんだと思う。だって彼は、今回に限らず、今までにもほとんどの搭乗において、事前連絡をしていないんだから。

そしてそれを

面倒です。連絡をしなかったのは確信犯ですね。

って言ってるんだから、そう解釈されてもしかたないと思う。しかもその「面倒」(診断書を出せと言われる、根掘り葉掘り訊かれる……)の前提が、かなり間違ってるんだけどね。

だからこれは、今回が「たまたま事前連絡しても乗れない航路だった」というだけで、本当は同じことが「事前連絡していれば乗れる航路で起きた」としても、まったく不思議じゃないことだったんだ。その意味でこれは、「航空会社の搭乗拒否」というよりむしろ、「木島さんの手続き拒否」と言ってもいいものなんじゃないかと、僕には思えてしまうんだ。

もちろん、「声を上げる」ことはものすごく大切だ。でもその意気込みが本気ならなおさら、「手抜き」はしちゃいけない

ただもちろん彼のやっていることや活動、それにその根底にある理念のすべてがおかしいとは、僕も思っていない。

誰もが飛行機に乗れるようになってほしいですね

という気持ちは僕だって持ってるし、それに限らず個人と社会との間にある「障碍」(バリア)は、ほんとの意味でいつかすべてなくなってほしいと、僕も本気で思っている。そしてそのためには、「声を上げる」ことが大切なんだってことも、その声に真剣に耳を傾けることが必要なんだってことも、その考えを「実践」して「表現」することが必要なんだってことも、僕なりにわかってるつもりだ。

歩けない人はバニラ・エアに乗れなかった。「合理的配慮」とは何か?「誰かが声をあげないと変わらない」

だけどそうやって声を上げるときには、周りからただ単に

うるさいなぁ!!

って思われないために、「できる準備」はちゃんとぜんぶしておくことが、すごく大切なんだと思う。そうじゃなきゃ、社会は変えられない。それに、たとえできる準備をできる最大限に整えたとしても、社会を変えるのは、「自分の切実な困りごと」を、「みんな」に共有してもらうのは、簡単なことじゃない。だからこそ、もしその想いが本気なら、なおさら「手抜き」はしちゃダメだ。

こっちはちゃんと事前連絡もしたし、何度も相談した。それに付き添いのひともいたし、なんなら自力でも上がれるよって伝えた。それでもダメだって断られるのは、おかしくないですか?あなたは、どう思いますか?

って言っていたら、この話はもっと、うまく社会に浸透してたはずだ。僕はそこがすごく、残念なんだ。

そもそも、LCCに車いす乗りが搭乗できるようになったのは、確かに多くのひとたちの「積み重ね」があったおかげだ。その経緯がまとめられてる、この文章を読んでみてほしい。

今日は日本初のLCC(格安航空会社)ピーチ・アビエーションとの交渉を報告します。

LCC(LowCostCarrier)とは格安航空会社のことで、アメリカのサウスウェスト航空を始めとして欧米では多くのLCCが飛んでいます。日本では今回のピーチアビエーションが初めてとなります。安全面を除くあらゆるコストを省いて運賃を大手航空会社の半額以下にしているのが特徴です。

日本では昨年から上海-茨城間を中国の春秋航空が最低3000円で飛んだのが初めてでした。国内線としてはピーチが初めてで3月1日に関西から札幌に初就航しました。「空飛ぶ電車」といわれるぐらい低価格な飛行機を目指しているようです。今年は日本でのLCC観念といわれ、夏からはエアアジアジャパンとジェットスタージャパンが就航し、3社のLCCが国内線で就航することになります。

そんな中で格安に目がない僕は予約が開始されたすぐにピーチに予約しようと待っていました。ピーチは全日空が筆頭株主で株主ですから対応が全日空と同じく良いだろうと期待していました。しかし、搭乗するのを拒否されてしまいました。

障害者は電話予約のみというので1月13日、電話で予約をしようとしました。しかし、会社の規定で僕の電動車いすのサイズが大きいから予約は受けられないという返事でした。50cm×50cm×80cmのサイズの車いすしか乗せられないということでした。こんな小さなサイズの車いすはありません。

車いすの大きさだけで搭乗を断ることは疑問に思いましたので、国土交通省や会社側に搭乗を拒否しないでほしいという主旨の要望書を出しました。

1月30日に東京新聞・中日新聞が記事を書いてくれて、それが朝の情報番組でも取り上げられました。その直後に、ピーチ・アビエーションからお詫びの電話があり、回答書も届きました。規定を変えて「僕の電動車いすも貨物室に入れることができるようになったので、是非お乗りいただきたい」ということでした。僕は話し合いも求めていたので2月27日に関西空港での意見交換会をすることになりました。

当日はまず施設見学から始まり、実際に搭乗する時の同じルートでターミナルから機内まで見学しました。

(中略)

見学会終了後にマスコミも入って2時間の意見交換会が行われました。

(中略)

いずれにしても、3月から飛び始めた新しいLCCという形態の航空会社なので、障害当事者がどんどん搭乗して意見を定期的に言っていけば、障害者にとって乗りやすい航空会社に変わる可能性を感じました。今年はLCC元年、皆さんどんどん乗って意見を言っていきましょう。

ここでは、周到な準備とたくさんの時間をかけて、少しずつお互いの想いをすり合わせて行く過程が、はっきりと書かれている。僕はこれに、強く感銘を受けるんだ。でもこんなに時間をかけてていねいに説明してやったことでさえ、僕は当時実際に少なくないひとたちが、

LCCの意味わかってんのか?こんなヤツらは、おとなしくANAにでもJALにでも乗ってろよ!

って言ってたのを、知ってる。

でもそんななかでも、粘り強く話し合って、お互いに調整し合ったから、今は僕でも飛行機に乗れるんだ。しかもLCCだけじゃない、ANAだってJALだって、僕たちが乗れるようになったのはそもそも「長年の諦めない交渉」があったからこそだ。そしてそれは、本当は単に一方的な「温情」でも「譲歩」でもないはずだ。だってそのおかげで航空会社のほうだって、車いす乗りっていう無数の「潜在顧客」を獲得できたんだからね。「お互いにとっていい社会を創る」っていうのは、そういうことだ。そして僕は、それが実現できる方法は確かにあると、今も信じてる。

今回のことでいちばんの「損失」を受けたのは、いったい誰なの?

でもほんとは、こんな「大上段に構えた話」は、いちばん大切なことじゃないと、僕は思ってる。

ほんとに重大なのは、こんな「もう少しちゃんとすれば避けられたかもしれないことで、かけがえのない旅行の想い出に泥を塗られてしまった」という、そのどうしようもない事実だ。

僕自身が飛行機に乗った回数は、木島さんよりはるかに少ない。だけど飛行機に乗ろうが乗るまいが、「日帰り旅行」だろうが「何時間かのドライブ」であろうが、単なる「外出」と呼ぶようなものだって、僕なら事前にできる限りの準備をする。

雨が降る予報じゃなくても、一応かっぱは持っておこう。車いすトイレはどこにあるかな?タクシーは急に拾えないかもしれないから、事前に予約しておこうかな。それともバスが車いすに対応してるなら、そのほうが安いな。このお店は、1階なのかな?段差はどうなってるのかな?

みたいにね。でもそれでも「想定外」のことは起きる。じゃあそれはそれで「想い出」にすればいいけど、それにしたって「嫌な想い出」は、できるだけ避けたい。だって、それは同じものは2度とない、かけがえのない旅行なんだから。

木島さんが言う、

面倒だよ!それにほんとはもっと、簡単になんでもできたほうがいいでしょ?

っていうのは、わからないわけじゃない。でも木島さんは、

ここらでひとつ、バニラエアを試してやろう!さて、どう来るかな?

っていう趣旨で、今回のことを計画したわけじゃないよね?あくまでも、

みんなと一緒に、楽しい旅行をしよう!

と思って、楽しみにしてたんだよね?だったらその「目的」に対して、できる限りのことはしたらよかったんだ。そしてそれは、ほんとは、誰よりも木島さん自身のためだ。今回のことで、もしかしたら「障碍者」のイメージは、多少悪くなったかもしれない。それは残念なことだ。だけどそれ以上に木島さんのイメージや印象も、少なくとも部分的には、悪くなったと思う。それはたとえばこんな文章が書かれてることからも明らかだ。

格安航空会社バニラ・エアに搭乗拒否され、腕の力でタラップを這い上がったと騒いでいる木島英登(きじまひでとう)氏…

だけどそんなことより、木島さんが今回の旅行に嫌な想い出を残されてしまったことが、僕はなにより残念なんだ。でももしも、(この文章を木島さんが読むことはたぶんないと思うけど)僕のこの「残念だ」っていう真意を木島さんと共有できないんだとしたら、僕はそのことがほんとのほんとに、いちばん、残念なことだ。これが今回の騒動に対する、今の僕のいちばん素直な、感想なんだ。

トップへ戻る