このからだで生きていると、視点が低いぶん小動物と世界が近くて、親近感を感じることも多い。前に

を書いたのも、その一例だ。
そのゴキブリの動きは、明らかにおかしかった
そんな僕が今日、いつものようにパソコンに向かいながらふと目をやると、そこにゴキブリがいた。でも僕は別にゴキブリを嫌ってない。っていうかむしろ、
なんでクワガタやカブトムシは好かれてるのに、ゴキブリは嫌われてるんだろう?そんなに違うかなぁ?
なんて疑問が、ちいさい頃からずっとある。
ちょっと探すと

なんて文章もありました。
だからそのまま自然のままに放置してたんだけど、少しすると彼(彼女かもしれない)の動きのおかしさに気がついた。
タンスにも壁にも上がれずに、そのあたりをうろついていた
それで僕は、彼から眼が離せなくなった。そしたら彼は、まず近くのタンスによじ登ろうとした。でも少し登ったところで、限界を感じたのか床に引き返した。そして彼は、次に部屋の壁を上がっていこうとした。すると今度は、ある程度まで上がることができていた。でも、そう思った次の瞬間、彼は僕の視界から消えた。
僕も歩行器(ちなみにPCW=posture control walkerって呼ばれてる)や杖なんかで歩いていた頃にも同じような経験があるから想像できるけど、きっと彼も驚いただろう。そして彼はそこから20秒くらいの間ひっくり返ったままで足をバタバタさせてもがき始めた。
僕は内心、彼の弱り具合から推察して
このままだったら、ずっと起き上がれないんじゃないかなぁ……?
なんて心配していたんだけど、そこはさすがの生命力で、彼はちゃんと体制を立て直した。でも、
ここからこの子は、次にどこに向かうんだろう?
なんて思っていた僕は、このあとの彼の行動に、心底驚くことになるんだ。
彼は僕に向かって、どんどん近付いてきた
落下から立ち直った彼は、今度は急に針路を転回した。そして最初は半信半疑だったけど、明らかに僕の方向に向かって進み始めたんだ。僕はこの際、彼の意志をとことん確かめたかった。だから別に動くこともなく、じっと彼を観察していた。そしたら彼は、いよいよ僕のすぐ傍らまでやってきたんだ。でも、まだそれで終わりじゃなかった。
僕は四つ這いの姿勢だから、肘が床に接してる。すると彼は今度は僕のその肘を、掌の方向に向かってよじ登り始めたんだ。この頃になると、僕はもう静かに興奮していた。こんな瞬間に立ち会えるひとが、いったい世界に何人いるんだろうか?僕は固唾を呑んで、彼を見守った。そしたら彼はそこから腕を順調に上がり、ついに手首下10センチくらいのところまで迫ってきた。僕はもう、彼の「冒険」の結末を、見届けずにはいられないと思った。
このまま掌まで上がってきたら、両手で包んで撫でてあげようかな……
そんなことを考えていた僕の想像を、彼はまたしても、完全に超えてきたんだ。
落ちたんじゃない、飛んだんだ!
そして僕が手で彼を迎え入れる心積もりを整えていたら、彼はまたしても突然、僕の視界から消えた。
さっきみたいに、また落ちたのか?
と思って下を見ても、膝のあたりを見回してみても、どこにも見当たらない。
そしてそのあと、彼は少しの間動かずにいたかと思うと、やがて静かに、僕のもとを離れていった。そして少し眼を離した隙に、気付いたらいなくなっていた。
こんなに心を揺さぶられた15分間を、僕はできるだけ、眼に焼きつけた
生きるって、いったいなんなんだろう?この問いの答えは無限にある。あのゴキブリなら、なんて答えるんだろうか?
なにかを見続けること、動き続けることだよ
なんて言うんだろうか?それは、わからない。これは僕の想像だ。

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