その大学との「入学相談」は、僕がトイレに行っている間に終わった

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赤信号

今や、大学進学率は50%を超えていて、いずれ「大学全入時代」が来るんじゃないかとも言われるくらい、大学進学は身近なものになったと言われている。でも、そこに「高等専門学校」も含めた「高等教育機関」に在籍する学生が320万人とされているなかで、「障碍学生」が占める割合は2009年の時点でも0.22%、数にして8000人もいない。

これは「障碍者手帳」によって把握されている障碍者だけでも、人口の「5%」はいるという事実から見ても少なすぎる。だからこれは明らかに、障碍者と大学進学の間にも大きな「障碍」があることを示していると思う。

養護学校から「大学」に進むひとは、周りでもほとんどいなかった

もう何度も書いているように、僕は高校のとき、「全寮制の養護学校」に通っていた。でもそこの授業は最初から「大学進学」なんてものを目標にしたものじゃなかったし、実際そこから大学に進むひとはほとんどいなくて、いたとしてもみんな「推薦入試」で「設備の整った大学」に行くだけだった。

でもそれって結局、

「行きたい大学」じゃなくて「行ける大学」に行くってことだ。しかも学力以前に「設備」の問題でだよ。

それがどうしても納得できなかったから、結局僕は浪人もしたけれど、通信教育も受けながら、「基本独学」って感じで勉強してたんだ。

それに僕はだいたい学びたいことなんかも絞ってたから、その方向性と得意科目を活かして、「センター試験入試」での合格を目指すことにしていた。これなら、たくさんの学校に個別の「試験前相談」をしなくても済むし、ありがたいことに「センター試験」っていうのは、障碍者に比較的手厚い配慮(受験に不都合を感じさせない対応)をしてくれてたから、それを活用したいっていうのもあった。それにそのほうが、試験対策もしやすいしね。

でも結局、「入学後」のことは大学しか決められない

でもこれは、大学の「入口」までの話で、結局その先、「入学後のこと」は、大学しか決められない。逆にもし、「試験に受かるだけでいい」んだったら、僕は地元の高校に入学できてたはずなんだから。だから実際、大学側は僕たち障碍者が受験する場合に、「事前相談」っていうのを求めてくる。僕が受験した頃は願書を出すよりもずっと前、だいたい12月上旬くらいまでに申し出なきゃいけないことになっていた。その決まりにどこまで「強制力」があるのかはわからない。でも、結局最後に困るのは自分なんだし、余計な火種を抱える必要なんかないから、そう言われているならそうすればいい。っていうか、そうするしかない。

それで、僕は当時最終候補として考えていた2つの大学に、順番に電話することにした。でも緊張からかトイレに行きたくなったんだ。そしたら親がそれを察して、

どうせすぐには結論出ないだろうし、担当もたらい回されるかもしれないんだから、とりあえず簡単なことは私から訊いとくよ。私も一応把握しときたいし。それで具体的な話になったら、自分で話しなさい

って言ってくれたんで、僕もそれに甘えてトイレに行ったんだよ。

トイレから帰ってきたら、もう電話は終わってた

そして僕が用を済ませて帰ってきたら、そのたった数分の間に、もう電話は終わってたんだ。だから、

どうしたの?本人からかけ直しなさいって?

って訊いたら、

いや、あっさり断られた。詳しくは自分でも訊いてみなさい

っていうもんだから、僕もすぐ電話した。その後のやり取りは、こんな感じだった。

すみません、つい先ほどお電話した四つ這いおとなですが、私は貴学には受け入れていただけないということでしょうか?

いえ、そういうわけではないのですが、車いすが必要で、なおかつご家族とは別居になるということですと、本学に入学しても、ご迷惑をお掛けするだけかと……

その「迷惑」を解消するための手助けや配慮はしていただけないということですか?

いえ、もちろん可能な限りの支援はさせていただこうと思うのですが、なにぶん本学は階段や段差も多いですし、車いすのまま入室できない教室などもあるものですからやはり難しいかと……

では結局、私が貴学に入学するのは現実的に難しいということですよね?

……そうですね、これは仮の話なんですが、たとえば他の大学様ならばもっとご負担のない大学生活を送れるのではないかと……

私が貴学のカリキュラムや学びの内容などを検討したうえで、「この大学で学びたい」と思って貴学を志願しようとしています。それに私が学費を払うことは貴学にとってもプラスになるはずです。もちろん私が試験で不合格になったならばしかたがありません。ですがそれでも、貴学としては私を受け入れることは「限りなく不可能」だと、そしてこれ以上の話し合いの余地はないと、そういうことだと理解してもいいのですよね?

……そう解釈されてもしかたがありません

わかりました。ありがとうございました

僕もけっこう粘ってみたんだけど、ダメだった。やっぱり数分で、ほぼ「門前払い」されてしまった。
これは僕にとって、けっこう衝撃的な経験だった。

でも僕は、なんとか大学生になれた

でも、結論としては僕はもう1つの候補大学に入学できたんだ。最初相手に、

車いすでひとり暮らししながら通学していた学生は今までの前例にはないんだけどねぇ……

って言われたときは心が折れかけたけど、最終的に相手が、

わかった、とりあえずこれから話し合いながら、やれる限りやってみよう!

って言ってくれて、それから紆余曲折を経て、最後にはなんとかなったんだよ。

これ以上予算は割けないよ!

なんてことは、在学中も何度となく言われたけど、今はいい想い出だ。それに僕はやっぱり感謝してるんだ。だって、僕が大学生になって、好きな勉強に打ち込めたのは、

相手が受け入れてくれたから

なんだもの。

あれから、状況は変わっているの?

ただこの体験は、もう何年も前の話だ。だから今なら、多少なりとも状況は改善しているかもしれない。そう思ってちょっと調べてみた。

まずは東京大学から。

本学では、障害等のある者が、受験上及び修学上不利になることがないよう、必要な配慮を行っており、そのための相談を常時受け付けています。

受験上の配慮については、内容によって対応に時間を要することもありますので、出願する前のできるだけ早い時期に入試事務室(03-5841-2085)まで相談してください。特に、点字又は代筆など、通常と異なる解答方法を希望する場合は、準備等に時間を要するので、平成27年12月17日(木)までに相談してください。期日までに相談がない場合、受験上の配慮ができなくなることもありますので、十分注意してください。

引用元「平成28年度東京大学入学者選抜要項」

じゃあ次、一橋大学はどうだろう?

本学への出願を考えている場合には、できるだけ早い時期(平成27年12月11日(金)まで)に入試課に(1)による事前相談の申請をしてください。

事前相談の申請をした場合であっても、本学への出願が義務付けられるわけではありません。出願する、しないが未定であっても申請はできます。

また、やむを得ない理由により期日を過ぎて申請を行う場合には、申請前に電話等でご連絡ください。なお、この場合は、下の(2)書式における「10 入学後配慮を希望する事項」への対応は入学後に検討することになります。入学前には本学の措置内容を通知できない旨、ご留意ください。

(1)事前相談の方法

事前相談の申請は、(2)の書式により「入学試験に係る事前相談について」を作成の上、医師の診断書などの必要な書類を添付して提出してください。

引用元「障害等のある入学志願者の事前相談について」:『一橋大学』

最後に早稲田大学も見てみる。

身体機能の障がいや疾病等により、受験・就学に際して配慮を必要とする場合は、出願に先立ち、入学センター
(TEL:03-3203-4331)まで連絡してください。

入学センターでは、連絡のあった方に対して所定の申請用紙を送付しますので、診断書等の必要書類を添えて、期限までに申請してください。一般・センター利用入試への出願は、当学から配慮事項に関する審査結果を受け取った後になります。

a.申請期限は2014年12月15日(月)です。

b.センター利用入試のみに出願する場合も申請してください。

c.申請書に基づいて障がい等の種類、程度に応じた配慮を行います。ご希望のすべてに対応できるとは限りませんのでご了承ください。

d.不慮の事故や急な発病等のために、上記の期限までに申請ができなかった場合についても、可能な限り速やかにご連絡ください。

e.期限後の申請については、受験上の配慮を行えない場合があります。

f.日常生活において、補聴器、車椅子等を使用している方で、試験当日も同様に使用する場合は、試験場設定等の関係から、必ず申請してください。

g.目薬や点鼻薬、座布団、ひざ掛けの使用については、事前の申請は不要です。その他、試験時間中に使用できる物品については、44ページで確認してください。

引用元「2015年度(平成27年度)早稲田大学入学者選抜要項」

どうだろう、こうしてみると各大学ごとの「違い」があることも含め、いろいろなことを読み取ることもできると思う。でも、特に小さな大学ならなおさら、こういう「建前」と「実態」との間に差があることも多いだろう。そのひとつの極端な例が、あの「門前払い」だ。あんなことなら、最初から「車いすのかたは受け入れられません」って書けばいいのにって思うけど、それは無理、っていうかやりたくないんだろうね。でも僕は単純に、

みんなが、そして僕自身が、もっと気楽に生きられるようになって欲しい

と思う。だから、そのためにまずささやかな方法として、自分の体験を伝えようと思う。そしていつかそういった意味での「大学全入時代」が来ることを願ってる。それに魅力のない小さな大学はこれからますます淘汰されてくって言われてるんだから、「バリアフリー」を魅力のひとつとして打ち出すのだって、全然悪くないと思うんだけどね?

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